II. カーステアズ、事件を引き受ける

「 少し正直になれよ」と、ドーンは誘った。「モリス大佐の娘との婚約はまだ続いているのかい?」

「いや、まったく」と、オーエンスは言った。

「彼女があんたをふったのか?」

オーエンスは目を細めて彼を見つめた。「あんたに関係あるか?」

「とんでもない」 ドーンは愛想よく言った。「農場に着くまで、他にすることもないから、きいているだけだ。」

「それで、あんたの考えは?」

「他の連中にでも聞いてみるか。」

「それよか、おれに聞けよ。」

「気難しいやつだな」と、ドーンは感想を言った。「それこそ、おれがやろうとしていたことだ。ですから、その当事者に、あなたはふられたのですか?」

「彼女の名前はジェシカ・モリス。そう、ふられたのさ。これで満足かい?」

「おぉ、いかにも。」ドーンは言った。「あんたは満足か?」

オーエンスはゆっくりと言った。「このへんにしておかないか。」

「まあな」 ドーンは認めた。「おれには分別というものがないんでね。あんたは?」

「うるさいな。ちょっと、黙れないか?」

「場合によるな」と、ドーンは言った。「ジェシカってのはどんな女だ?O脚?X脚?口が臭いとか?」

「ノー!」

「聞いただけだ」と、ドーンは言った。「前にここに来た時は会ってないんでね。どんな風にふられたのかな?」

オーエンスは深く息をついた。「ジェシカはとても親切で礼儀正しい。とても外交的だ。彼女はおれを信じてくれた。信頼してくれた。おれの裁判では、一日中泣きじゃくっていた。刑務所にいた時には、優しい手紙をくれた。最初は愛情たっぷりだったんだが、だんだんとそうでもなくなっていった。ある日、ラムゼイ紙の切り抜きが届いた。彼女はグレトレックスという男と婚約した」。

「おもしろい」 と、ドーンは言った。「彼女はそいつと結婚したのか?」

「知らん。」

「そいつは何者だ?」

「紳士で農場主だ。」

「へ?」と、 ドーン。

「キツネを狩るのさ、馬に乗って。」

「タリホー」と、ドーンは言った。「その女は、そんなマヌケ・ブランドに惹かれるタイプか?」

「そうなんだろ。彼女がそいつに惹かれたのは、たしかだ。大佐も彼を気に入ってる。」

「好みってのは説明できないからな」と、ドーンは慰めた。「例のノーマ・カーソン先生はジェシカをあまり買っていないようだが。」

「彼女は偏見を持っている。彼女とおれは、同じ小さな町で育ったんだ。ずっとお互いを知ってるのさ。彼女は陪審員たちがこの農場でのことで、最初からおれに偏見を持っていたと考えている。もし大佐とジェシカがいなかったら、あの状況ではおれは絶対に有罪にはならなかったと思っているんだ。ジェシカは、おれに起こったことを気にしていないようだった。」

「あんた自身はどう思ってる?」 と、ドーンが聞いた。

オーエンスは眉をひそめた。「どうかな。大佐は嫌われ者だ。法的には不正はないかもしれんが、ビジネスではとんでもなく鋭いし、ずる賢くて、イタチ以上に冷酷だからな。」

「さて、」と、ドーンは言った。「少しばかり、こんがらかっているな。もつれをほどくには、大佐がおれを雇ってくれてよかったよ。」

オーエンスは鼻で笑った。「あんたに、できるのか?」

「おれは天才なのさ。考えたりしない。座って、ひらめきを待つだけだ。」

「ひらめくといいな。」オーエンスは苦々しく言った。

「どっちに行けばいいんだ?」 と、ドーンが聞いた。

「次のブロックを右。」

「あれだ。」 しばらくして オーエンスが言った。「この郡の名所だ。いつものようにライトアップされている。」

屋敷は、道路から少し奥まって緩やかな高台のうえに広がっていた。この家を設計した建築家は、まずはモンティチェロやマウントバーノンなどのコロニアル建築の名所をじっくり見て回ったという。

細かい砂利がステーションワゴンのフェンダーの下でガタガタと音を立てた。ドーンは長いカーブを描く私道を進み、玄関の前で車を停めた。

「あ、着いたな!」と、声がひびいた。「ハロー!」

ベランダの階段の最上段に、その男は立っていた。大柄で、確固たる自信に満ち、禿げた頭は光でなめらかに輝いていた。褐色のズボンに褐色のツイードのジャケット、さらに濃い褐色のシャツを着ていた。まるでウイスキーの広告に出てくる田舎紳士だった。彼は顔をほころばせ、うれしそうに手をこすりながら、急いで階段を降りてきた。

「やあ、ドーン。またお会いできましたな。彼を連れてきてくれたんですな?ああ、そうだ。そうだと思っていた。君を信じていましたよ。ブラッド!ブラッド!お帰り!」

「こんちは、大佐」オーエンスはそう言って、車を降りた。

モリス大佐は彼の肩を叩いた。「元気そうだな! まったく! やっと会えたな! 実に!じりじりして待っていたんだぞ。本当のところ、まる一日、部屋のなかを歩き回っていたよ。」。

「僕も、幾度か、やったことがありますよ」と、オーエンスは言った。

「えっ、ああ、そうか。もちろんだな。まあ、もう過去のことだ。過ぎたことと、忘れた方がいい。さあ、入って、入って。そして...えっ?ああ、そう。ジェシカだ。」

彼女は、玄関の光から少し外れて、ベランダに立っていた。影の中に、白いドレスを着、髪が暗い光を映していた。彼女は近よろうとしなかった。

「ジェシカ」と。モリス大佐が言った。「ブラッド・オーエンスが、かんご...その、戻ってきた。」

「どこからかは、知ってますよ。」 オーエンスは言った。

「こんにちは、ブラッド。」ジェシカは穏やかに言った。

オーエンスは丁寧にうなずいた。「こんにちは。」

「えーっと、」 モリス大佐が言った。「まあ、」

ドーンが咳払いした。

「ああ」 と、モリス大佐。「そう、すまん、これはドーンだ。ジェシカ、 例の探偵だ。その、ドーンがブラッドを、あれだ・・・街から連れてくると言ったのを覚えているよな。」

「ハイ、ジェシカ 」と、ドーンが言った。

「え?」モリス大佐は驚いた。「おい、これはわしの娘だ!」

「だからって、別にお嬢さんの評価は下がりませんよ」と、ドーンは断言した。「あなたがくたばるとき、お嬢さんに全財産を残すつもりですか?」

「まあ、もちろん・・・どういう意味だ?」

「聞いただけです」と、ドーンは言った。「聞かないと分からないことが多いからね。ジェシカ、あなたは結婚していますか?」

「いいえ」と、ジェシカは言った。

「結婚について、誰かが何とかしないとな」と、ドーンは言った。「財産はともかく......あなたは今のままでも、かなりいけてますよ。そう思わないか、オーエンス?」

「それは重要じゃない」と、オーエンスは冷たく言った。

「おれには重要だ」と、ドーンは打消した。「ジェシカみたいな体で、財産もあるなんて女の子は、そこらの街角にいはないよ。おれはさんざん探したから知っているがね。」

「おい、お前!」大佐は怒り吠えた。「その傲慢な態度はやめろ!わしは雇い主だぞ!」

「それは私が請求書を出すまでは分からないね」と、ドアンは断言した。「さて、家の中に落ち着いて、政治的状況についてじっくり話をしませんか。ジェシカとオーエンスは二人で話したいだろうし」。

「話すことなんてない」と、オーエンスは冷たく言い放った。

「そうね。」 ジェシカは言った。「おやすみなさい。」

ジェシカはポーチを横切り、玄関に入っていった。

モリス大佐はドーンに顔をしかめた。「君、君の態度と言葉には我慢できん。今後、私の娘に話しかけるときは、もっと礼儀正しく話してくれ。」

「オーケー」と、ドーンは言った。「しかし、そんな特別なサービスには、割増料金が発生しますよ。一晩中、ここで立ち話をするつもりですか?疲れたよ。」

モリス大佐は深く息をついた。「入ってくれ。ドーン、君に相談したいことがあるんだ。ブラッド、君の服や身の回りのものは、左の棟の以前の君の部屋にあるよ。」

「僕はそこに行ってます。」 オーエンスは言った。「今日は長くて忙しい一日だったもので。」

「セシルに何か食べるものを届けさせようか?」

「いいえ、結構です」と、 オーエンスは言うと、左に曲がり、ベランダに沿って歩いていった。

モリス大佐はドーンにうなずいた。「来たまえ。」

二人は玄関に向かったが、モリス大佐は立ち止まり、非難するように人差し指を立てた。

「そいつを家の中に入れるつもりかね?」

「カーステアズ?」 ドーンが言った。「こいつは暗闇を怖がるんでね。怖くなると、吠えるんです。」

「なら、吠えさせてやれ!」 モリス大佐は言った。

「とんでもない」 と、ドーンは言った。「あなたは、こいつの声を聞いたことがない。この前は、ガラス窓を三枚も割って、おじいさんの掛時計を止めてしまったんですよ」。

カーステアズが玄関からホールに堂々と歩みいって、この議論には決着がついた。モリス大佐はぶつぶつ言いながらカーステアズの後に続いた。ドーンがその後に続き、大佐の部屋に入った。その部屋は、格別個性的ではないが贅沢な趣味を持つ人間の、書斎、私室、事務所を兼ねた部屋として整えられたものである。

大きな暖炉の棚には船の模型の類、壁には狩猟の版画、部屋の片隅に巨大な一枚板の机、そして、深い革張りの椅子が数脚あった。

ドーンは椅子のひとつに座り、ため息をついた。「飲み物がほしいところだ」と、彼は言った。

モリス大佐は「フン!」と言った。大佐は、机の横のスタンドから四角いカットグラスのデカンタを手に取った。空だった。

「セシル!」 彼は叫んだ。「セシル!」

後ろのドアが開き、男が頭を差し入れた。禿げて、トウモロコシ色の口ひげを生やし、少し目が寄っている。

「大声出してると、いつか腹が破裂するぞ」と、彼は言った。「何の用だ?」

「デカンタにウイスキーがない!」

「当たり前だ。飲んじまったんだから。」

「もっと持ってこい!」

「持ってくるとこだったのさ。 落ち着けって。」

彼が頭を引っ込めると、ドアがひとりで閉まった。

モリス大佐は机の後ろに回り込み、どかっと腰を下ろした。頬の血管を赤くうき出させ、「横柄な!」と、怒鳴った。「実に傲慢なやつだ。この調子じゃ、この世界は犬にまかせることになりますな、先生!」。

「そうなったら」と、ドーンはカーステアズを指して言った。「おれも分け前をもらおう。」

カーステアズは部屋の真ん中に座り、見下したように部屋の様子を調べていた。セシルがドアを開けて戻ってきた。彼は白い陶器の水差しを持っていた。歯でコルクを抜き、水差しからデカンタに酒を注いだ。酒はほとんど無色だが、わずかに黄色がかって、油のように滑らかに落ちた。

デカンタが一杯になると、セシルは肘に水差しをはさみ、たっぷりと飲んだ。

ドーンを睨みながら、「お前が探偵か」と、聞いた。

ドーンは、「そうだ」と、言った。

「探偵は好きじゃない」と、セシルははっきり言う。

「でも、おれのことは好きになるよ」と、ドーン。「おれはちょっと特別なんだ。」

「おれの台所に近づくな。でないと、死ぬぞ 」と、セシルは断言した。「おれはこのゴミ溜めの料理人だし、こそこそ嗅ぎまわるやつは嫌いだし、俺が言うことは絶対だ。あのドアの向こうはおれの縄張りだ。またぐなよ。」

「それでいいさ、セシル」と、モリス大佐が言った。

「邪魔するな」と、セシルが命じた。「ここをやめたっていいんだぜ。ここでなくても、今の倍の給料がとれるし、もっとましな連中にも会えるしな。それで、あそこの水牛とキリンのあいのこにもエサをやらなきゃいけないのか」。

「たのむ」と、ドーンが言った。「でも、あいつのことを知ればきっと好きになるよ。性格がいいんだ。」

「へッ!」と、セシルは疑いの目を向ける。「何を食うんだ?」

「ステーキ」と、ドーン。

「どんな?」

ドーンは目をみはった。「つまり?選べるのか?」

「まあな」と、セシルは言った。「冷凍庫に牛を何頭か吊るしてある。欲しいところがあれば、どこの肉でも切り取ってやるよ。」

ドーンは、「農場生活、いいねぇ」と、コメントした。「フィレがいいな。2ポンドくらいの。挽いて、ちょっとオーブンであっためてくれ。火は通すなよ。あいつのが終わったら、おれの分もたのむ。」

「オーケー 」と、セシル。「来いよ。ブサイク。」

「いい人についていけよ」と、ドーンがカーステアズに命じた。「ステーキをもらえるぞ。ステーキ。肉。」ドーンは唇を丹念になめてみせた。

カーステアズは信じられないというように彼を見つめた。

「ホントだ」と、ドーンは断言した。「本物の肉だ。」

カーステアズは即座に立ち上がり、目を細めてドアに向かった。セシルはドアを開けてやり、モリス大佐に意味ありげにうなずいた。

「飲み過ぎるなよ。医者が酒をひかえろって言ってたろ。」

「うせろ!」 モリス大佐は猛烈に怒鳴った。「自分のことをやってろ!」

「フーンだ。」 セシルはドアをわざと激しくしめて行った。

「無礼者」 モリス大佐がつぶやいた。「どっちを向いても、底なしの横柄さだ。」

「飲んだくれになるのも無理ありませんな」と、ドーンも同意した。「飲むつもりですか?」

「えっ、ああ。ほいよ」。

モリス大佐は、スタンドの下のラックから大きなショットグラスを二つ取り出し、酒を注ぎ、一つをドーンに渡した。ドーンはそれを飲みほした。

酒はビロードの滑らかさで喉をすぎて行った。

「気に入ったか?」 モリス大佐が尋ねた。

「味はないな」と、ドーンは言った。「それに、かなり弱いのかな?」

誰かが突然、ドーンの腹の中で小さな火薬を爆発させた。部屋の一角が傾き、三回ほど回転したかと思うと、元のところにゆっくりと穏やかに落ちてきた。

大佐は「弱い?」と、静かに言い返した。

「ワオ!」ドーンはやっと飲み込んだ。「ノー、取り消すよ。 いったい何なんだ?」

「コーン・リカーだよ。セシルが作っているんだ。だから、わしはあいつの無礼な態度を我慢しなければならないのだ。あいつは、ここ、ザ・スクエアのどこかに蒸留器を隠している。レシピはもちろん、作り方も見せてくれないのだ。」

「まだ見つけられない?」

モリス大佐はほくそ笑んだ。「セシルは昔流の密造者だからな。保安官のダーウィンは、フェイガンズ・ヒルで夜通し監視して、セシルが隠れ家に行くのを見つけようとして、二度も肺炎になっている。ダーウィンは、セシルと雇い主のわしを密造罪で告発するつもりなんだ。もう一杯、どうかね?」

「いや、結構です」と、ドーンは言った。「空きっ腹には、いささかこたえるんで。」

モリス大佐は、「では、本題に入ろう。なぜ君をこの仕事に雇ったか知っているか?」

「もちろん」と、ドーンは言った。「私は優秀な探偵として世界中で評価されていますからな。」

「いいや」と、モリス大佐が言う。「全然ちがう。わしは公式の筋に問い合わせたんだ。君は狡猾で、暴力的で、いかさま師で、まったく節操がないと聞いたぞ。」

ドーンは悲しげに首を振った。「それは中傷に過ぎません。私は全人生を良い仕事をすることに捧げてきたんです。」

モリス大佐は事務的にこう言った。「しかしながら、君がその不謹慎な態度を抑えることができれば、君とうまくやっていけると思うがな。」彼は身を乗り出して、強調するように、太い指で机の上を叩いた。「トラブルが起きそうなんだ、ドーン。いろいろとな。」

「トラブルがおれの仕事だ」と、ドーンは言った。

「君のことだから、ここで起きた死について、ブラッド・オーエンスからもう聞き出したのだろう?」と、大佐は尋ねた。

「少しばかり。」

「結構。あれは最も卑劣な誤審だった。陪審員がわしの敵やボケナスどもでなかったら、まず有罪にはならなかった。実際、彼を出すために、仮釈放でさえ、あらゆるコネを使って、二年かかった。わしにそれができたということ自体、このあたりじゃ皆、苦々しく思っているのさ。君には、連中の恨みが具体的な形にならないように、警戒してほしい。」

ドーンは、「わかった」と、言った。「誰か口を開いたら、おれがそいつを打ちのめしましょう。」

「それは粗削りだが、明快な表現だ」 と、モリス大佐は同意した。「オーエンスはわしには息子も同然なんだ。これ以上の迫害は許さない。」

「それに」と、ドーンは付け加えた。「農場の管理には彼が必要だ。」

モリス大佐の赤く熟した顔が少し曇った。「そのようなことを言うのは控えてもらいたい。そんな皮肉はうんざりだ。」

「おれもそう思う」と、ドーンは同意した。「いいでしょう。おれはオーエンスの後ろを歩き回って、舌を出した奴にインタビューするぞ。いつまでやればいい?」

「もしトラブルがあるなら・・・わしが言ったように・・・そいつはすぐに起こるだろう。オーエンスや、その、わしへの、憤懣はすぐに出てくるだろう。」

家の裏手から激しい、絞められるような叫びが聞こえ、一瞬のうちにドアが開き、セシルが部屋に怒鳴り込んできた。

ドーンに向かって、「お前の飼っている動物は何なんだ」と、怒鳴った。「豚小屋で育てられたのか?」

「そう」と、ドーンは言った。「だが、とても清潔な、ね。今度は何をしたんだ。」

「おれのケーキ生地にくしゃみをしやがった!餌をやった後に!どう、しつけたんだ。やつはわざわざ生地の真ん中にくしゃみをして、スノコにぶちまけたんだぞ。」

「あんたは、何をしたんだ?」 ドーンが聞いた。「やつがくしゃみをする前に、さ?」

「おれはトウモロコシを軽く一杯あおったのよ。それだけだ。」

ドーンはため息をついた。「そうか。カーステアズは酒飲みを猛烈に嫌っている。酒のにおいを嗅ぐと苛つくんだ」。

セシルは喘いだ。「自分の台所で穏やかに酒を飲むことも許されないのか」。

「たぶん」と、ドーンは認めた。

「あの野郎」セシルは叫んだ。「じゃあ、あいつには俺の台所では食わせない!聞いたか、大佐?今後、あの忌々しい犬はダイニングで食うんだ!」

「ここだって?」 モリス大佐は愕然として言った。「あのバケモノ犬をダイニングに?ありえない!」。

「不可能でもなんでも、やつには、そこで餌をやるんだ」と、セシルは歯をきしらせた。「金輪際、おれのケーキ生地にやつの鼻を近づけないようにな。お前!台所から出ろ!」。

カーステアズは平然とドアを通り抜けて書斎に入った。そこで足を止め、ゆっくりと不気味に頭を返して、ドーンの握っているグラスを睨みつけた。ドーンは急いでグラスを置いた。

「一杯しか飲んでないよ」と、ドーンは言った。

カーステアズは徹底的かつ侮蔑的な不信感を持って鼻を鳴らした。カーステアズはすみに頭を置き、室内に背を向けて横になった。

ドーンは肩をすくめた。「まあ、まあ。やつはどうせ不機嫌になるんだから、おれはあと一、二杯、いや三杯いただこうか。イチかバチかさ。」